精神疾患双子由来脳オルガノイドの1細胞解析の論文が出版されました

精神疾患の発症が一致していない一卵性双生児由来のヒトiPSC細胞から脳オルガノイドを作製して解析した論文が出版されました。理研CBSの加藤先生、澤田先生との共同研究です。世界最高精度のQuartz-Seq2を応用した初めての論文になります。

患者由来の脳オルガノイドはGABA作動性ニューロンになりやすく、そこにはWntが関係していることを明らかにしています。Wntシグナルをレスキューすると分化能の差がなくなることを確認しています。

Tomoyo Sawada*, Thomas E. Chater*, Yohei Sasagawa*, Mika Yoshimura, Noriko Fujimori-Tonou, Kaori Tanaka, Kynon J. M. Benjamin, Apuã C. M. Paquola, Jennifer A. Erwin, Yukiko Goda, Itoshi Nikaido, Tadafumi Kato. Developmental Excitation-Inhibition Imbalance Underlying Psychoses Revealed by Single-Cell Analyses of Discordant Twins-Derived Cerebral Organoids. Molecular Psychiatry. 2020 (*These authors contributed equally)

プレスリリース: 精神疾患に神経細胞のアンバランスな運命付けが関連 -iPS細胞由来脳オルガノイドの研究から-

突発的遺伝子発現動態を網羅的に決定

広島大学大学院統合生命科学研究科ゲノム編集イノベーションセンターの落合 博講師らとマウス胚性幹細胞の突発的遺伝子発現動態を網羅的に決定しました。

Hiroshi Ochiai, Tetsutaro Hayashi, Mana Umeda, Mika Yoshimura, Akihito Harada, Yukiko Shimizu, Kenta Nakano, Noriko Saitoh, Hiroshi Kimura, Zhe Liu, Takashi Yamamoto, Tadashi Okamura, Yasuyuki Ohkawa, Itoshi Nikaido. Genome-wide analysis of transcriptional bursting-induced noise in mammalian cells. Science Advances  17 Jun 2020: Vol. 6, no. 25, eaaz6699

細胞は、数万ある遺伝子の情報をRNAへと「転写」し、RNAからタンパク質が合成され、生命活動を維持しています。この一連の流れを「遺伝子発現」と呼び、遺伝子の発現量は主に転写時に制御されています。多くの発現遺伝子は、常に一定の速度で転写されている訳ではなく、速い速度で転写される状態と、ほとんど転写されない状態が確率的に切り替わっていることが知られていました。これは「突発的遺伝子発現」と呼ばれ、同一環境中にいる、同一のゲノムDNAを有する細胞間で遺伝子発現量の多様性を生む要因の一つであることが知られています。しかし、哺乳類細胞における突発的遺伝子発現がどのように調節されているかは不明でした。

本研究では、マウスES細胞における突発的遺伝子発現の動態を網羅的に解明するために、RamDA-seq (Hayashi T. et al. Nature comm. 2018)を使い1細胞レベルの遺伝子発現解析を行いました。その結果、転写伸長因子などが突発的遺伝子発現動態を制御することを明らかにしました。さらに、CRISPR/Cas9による網羅的遺伝子破壊解析によって、Akt/MAPKシグナル伝達経路が転写伸長効率を調節することによって、突発的遺伝子発現動態を調節することを明らかにしました。

これらの結果は、哺乳類細胞における突発的遺伝子発現と細胞間遺伝子発現量多様性の根底にある分子機構を明らかにし、突発的遺伝子発現に由来する細胞間遺伝子発現量多様性を制御する技術の確立が期待されます。これにより、iPS細胞等の多能性幹細胞から特定細胞種への効率的な分化誘導法の確立へと繋がる可能性があり、再生医療への応用が期待されます。

日本語のプレスリリースは以下にあります。

哺乳類細胞における突発的遺伝子発現動態を網羅的に決定!!
-iPS細胞の精密な分化誘導法確立に繋がる可能性-

免疫応答遺伝子の発現多様性を明らかに

阪大蛋白研の岡田眞里子さんらとの共同研究の論文が出版されました。

免疫B細胞が抗原暴露されると免疫関連遺伝子の遺伝子発現が急激に上昇し、我々の身体を守ります。これらの遺伝子はNF-kBという遺伝子で制御されます。今回の論文では、NF-kBによって急激に上昇する遺伝子の特徴を明らかにしました。またNF-kBは1細胞ごとに発現量に多様性があります。これにより様々な細胞環境に集団として素早く応答していると推測されます。この発現多様性が生み出される要因も明らかにしました。

急激な反応や発現多様性は、NF-kBの結合するエンハンサーの長さと事前にリクルートされているPU.1とNF-kBにより、多くのNF-kBが結合することと関連していました。これらは岡田先生が得意とする数理モデリングと我々の1細胞オミクスの技術を活用して明らかにされました。

NF-kBは悪いリンパ腫やがんの原因にも関わっています。この研究で利用されたオミクス解析や数理モデリングは、さまざまな疾患の分子機序の解明、マーカー遺伝子の同定、創薬に応用できると考えます。

我々はRamDA-seq (Hayashi T. et al. Nature Comm. 2018)による1細胞RNA-seqの実施を担当しました。また東大の鈴木穰先生らは1細胞ATAC-seqの実施を担当しました。阪大の岡田先生、粕川先生(RIKEN IMS)らは数理モデリング、オミクスデータの2次解析を担当しました。関係者のすべてのみなさま、おつかれさまでした。

日本語プレスリリース: 免疫の初期防御応答における閾値(いきち)機構の解明

Hiroki Michida, Hiroaki Imoto, Hisaaki Shinohara, Noriko Yumoto, Masahide Seki, Mana Umeda, Tetsutaro Hayashi, Itoshi Nikaido, Kasukawa Takeya, Yutaka Suzuki, Mariko Okada-Hatakeyama. The number of transcription factors at an enhancer determine switch-like gene expression. Cell Reports. VOLUME 31, ISSUE 9, 107724, JUNE 02, 2020.

都内でゲノム科学やバイオインフォマティクス研究で修士号・博士号の取得を目指しませんか?

ゲノム科学やバイオインフォマティクス研究で修士号・博士号の取得を目指しませんか? 我々の研究室では、PIが兼務している東京医科歯科大学で、学位取得が目指せます。

我々のラボへの配属を希望する場合は所属は以下になります。

  • 東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 修士課程 医歯理工保健学専攻
  • 博士課程 生命理工医療科学専攻

詳細は以下をご覧ください。

Quartz-Seq2が世界最高性能を示しました

理化学研究所(理研)生命機能科学研究センターバイオインフォマティクス研究開発チームの笹川洋平上級研究員、田中かおりテクニカルスタッフI(研究当時)、林哲太郎技師、二階堂愛チームリーダーの研究チームは、「高出力型1細胞RNAシーケンス法」の国際的な性能比較研究に参加し、同研究室で開発された手法「Quartz-Seq2」が世界最高性能を示しました。

本手法は、今後、細胞分化や臓器・器官発生などの基礎研究から、再生医療や創薬などさまざまな研究分野の発展に貢献すると期待できます。

近年、高出力型1細胞RNAシーケンス法により、臓器に含まれる全ての細胞種と機能を同定し、これにより疾患の解明や発生の機序を理解する研究が盛んに行われています。現在、ヒトの全種類の細胞を調べる国際プロジェクト「ヒト細胞アトラス(HCA)」計画が進められおり、疾患解明や創薬研究などが進展すると期待されています。しかし、1細胞RNAシーケンス法はいくつかの手法が提案されており、その特性の違いが理解されていませんでした。

今回、1細胞RNA-seq法の中で世界的に主要な13手法の開発者・企業が参加し、その性能を比較する研究が実施されました。その結果、研究チームが開発したQuartz-Seq2が総合的な性能スコアで世界最高成績を収めました。

本研究は、科学雑誌『Nature Biotechnology』の掲載に先立ち、オンライン版(4月6日付:日本時間4月7日)に掲載されます。

Elisabetta Mereu, Atefeh Lafzi, Catia Moutinho, Christoph Ziegenhain, Davis J. McCarthy, Adrian Alvarez, Eduard Batlle, Sagar, Dominic Grün, Julia K. Lau, Stéphane C. Boutet, Chad Sanada, Aik Ooi, Robert C. Jones, Kelly Kaihara, Chris Brampton, Yasha Talaga, Yohei Sasagawa, Kaori Tanaka, Tetsutaro Hayashi, Caroline Braeuning, Cornelius Fischer, Sascha Sauer, Timo Trefzer, Christian Conrad, Xian Adiconis, Lan T. Nguyen, Aviv Regev, Joshua Z. Levin, Swati Parekh, Aleksandar Janjic, Lucas E. Wange, Johannes W. Bagnoli, Wolfgang Enard, Marta Gut, Rickard Sandberg, Itoshi Nikaido, Ivo Gut, Oliver Stegle, Holger Heyn, “Benchmarking Single-Cell RNA Sequencing Protocols for Cell Atlas Projects”Nature Biotechnology, 10.1038/s41587-020-0469-4

日本語のプレスリリースはこちら

1細胞RNA解析で世界最高成績-国際的な性能比較研究で証明-

もうひとつの Nikaido Lab.

チームリーダーの二階堂愛が国立大学法人 東京医科歯科大学 難治疾患研究所 ゲノム応用医学部門 ゲノム機能情報分野にもラボを構えることになりました。また、東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 修士課程 医歯理工保健学専攻博士課程 生命理工医療科学専攻 ゲノム機能情報 教授を兼務し、教育研究も行います。

今後は、理研のラボと大学との連携を深めることで、新しいゲノム科学、バイオインフォマティクス研究者の育成にも貢献します。

Millefy: 見逃されていた細胞ごとのばらつきを可視化する

1細胞RNA-seqデータのリードカバレッジを可視化するソフトウェアを開発しました。そのソフトウェアと論文が公開されました。この研究は筑波大の尾崎遼さんとの共同研究です。

Haruka OzakiTetsutaro HayashiUmeda ManaItoshi NikaidoMillefy: visualizing cell-to-cell heterogeneity in read coverage of single-cell RNA sequencing datasetsBMC Genomics volume 21, Article number: 177, 2020.

一般的に、1細胞RNA-seqではどの細胞でどの遺伝子がどのぐらい転写しているかを明らかにできます。これにより細胞種の同定や細胞分化系譜などの解析ができます。しかし1細胞RNA-seqのデータには、ゲノムのどこ位置から、どのぐらいのRNA分子が転写しているか、というゲノム座標との関連を示す情報も含まれています。このような情報を用いれば、新規転写単位の発見、RNAの配列変異、RNAスプライシング、アンチセンスRNA、エンハンサーRNA同定などが行えます。このようなRNA配列変化やゲノム位置などの情報は、疾患の解析では重要になります。我々が2018年に発表したRamDA-seqは、完全長Total RNAを1細胞から高感度に捉える世界で唯一の方法です。この手法では、非ポリAも含むRNAの全長がどんなに長いRNAでも読めるため、その特徴を活かしてRNA配列異常が起きる遺伝性疾患やがんの解析への応用が期待されています。

https://www.nature.com/articles/s41467-018-02866-0/

このRamDA-seqの性能を十二分に発揮するには、RNA配列変化に着目したデータ解析手法やソフトウェアが必要になります。先日発表した論文ではRamDA-seqの全長性を活かして、ゲノム中で発現量の異なる転写領域を同定する手法です。https://doi.org/10.1093/nargab/lqz020

今回の論文は、そのようなゲノム中で発現量の異なる転写領域を可視化することができるツールです。もちろん、そのほかの(いわゆる全長系と呼ばれている)1細胞RNA-seq法のデータでも利用できます。

https://www.riken.jp/press/2020/20200303_1/index.html

大規模データに対する主成分分析

大規模1細胞発現データを高精度・高速・低メモリで主成分分析(PCA)[1]する手法の性能評価を行い、論文を出版しました。本研究成果は、大規模な遺伝子発現データからの疾患関連細胞や遺伝子の発見で利用されるアルゴリズムの高速化・軽量化に貢献すると期待できます。

近年、臓器が持つ全細胞種を1細胞RNAシーケンス法(1細胞RNA-seq)で同定する研究が盛んです。この方法で得られたデータをPCAで簡素化し、細胞の種類や数、機能を特定しますが、大規模研究では細胞の数が100万を超えるため、従来法ではそもそも計算できなかったり、膨大な計算時間、メモリ量が必要とされます。

我々は、10種のPCAアルゴリズムを比較しました。その結果、高速化や低メモリ化には、行列の非ゼロ要素のみを格納する疎行列フォーマット[3]の利用や、行列の一部を逐次的に計算に用いるOut-of-core[4]な実装が有効なことが分かりました。そして、それらを考慮したソフトウェアを実装し、その有効性を示しました。

本研究は、英国の科学雑誌『Genome Biology』のオンライン版(1月20日付)に掲載されました。

Koki Tsuyuzaki, Hiroyuki Sato, Kenta SatoItoshi NikaidoBenchmarking principal component analysis for large-scale single-cell RNA-sequencing. Genome Biology. 21, Article number: 9, 2020.

大規模データに対する主成分分析の性能を評価
-100万規模の1細胞発現データで検証-

微量DNA精製用マグネットプレート

ラボの林さんが監修した「マグネットプレートBit-Mag96」が発売になりました。微量DNAをマグネットビーズで精製するときなどに利用できます。3 uLでも精製できます。もともろはRamDA-seqのDNA精製に利用するために開発したものです。

マグネットプレート Bit-Mag96
シーケンサー解析の前処理用に効果大!わずか3μlの微量容量にも対応