卵母細胞の老化を1細胞で解析

理研BDR北島研、濱田研らとともに、卵母細胞の老化に伴う変化を1つ1つの細胞で調べました。また卵母細胞を取り囲む卵丘細胞もその空間的な対応を保ちつつ採取しました。これらの検体を我々が開発したRamDA-seq法でトランスクリプトーム解析を行いました。

その結果、卵母細胞はその生殖寿命の後期で、卵丘細胞は初期から中期で老化の影響を受けることがわかりました。卵母細胞は閉経後に染色体異常の頻度が上昇しますが、観察したトランスクリプトーム変化と関連する可能性があります。

また食事制限を老化に伴うトランスクリプトーム変化を抑える傾向があることがわかりました。老化とともに染色体上で減少するタンパク質コヒーシンを調べると、老化依存的な減少が食事制限で部分的に抑えられることがわかりました。

今後は染色体分配エラーと老化、食事制限、トランスクリプトーム変化がどのような因果関係があるのかさらなる研究が必要です。

Tappei Mishina, Namine Tabata, Tetsutaro Hayashi, Mika Yoshimura, Mana Umeda, Masashi Mori, Yayoi Ikawa, Hiroshi Hamada, Itoshi Nikaido, Tomoya S. Kitajima.
Single-oocyte transcriptome analysis reveals aging-associated effects influenced by life stage and calorie restriction.
Aging Cell. 10 July 2021.

日本語のプレスリリースはこちらです。

卵母細胞の老化を1細胞で捉える -ライフステージと食餌制限によるトランスクリプトーム変化-

遺伝子が「密」になると働きが抑えられる

藤田医科大の石原さんらとの共同研究の論文が出版されました。ヌクレオソームを超遠心し複数の疎密の段階に分離し、そこに含まれるDNAをシーケンスする手法を開発しました。このデータとRNA-seqのデータ、RNAポリメラーゼ(RNAP)の結合度との関係を調べました。その結果、ヌクレオソームが密になるとRNAPが物理的に結合しにくくなり、周辺のRNAの転写量が下がる傾向がありました。

これまでヌクレオソームの化学修飾やヌクレオソームに巻き付いたDNAの酵素消化など間接的な方法で、ヌクレオソームと遺伝子の働きの強さを調べる研究が行われてきました。今回は、ヌクレオソームの疎密を物理的に分離して遺伝子の働きとの直接的な関係を網羅的に調べることに成功しました。

Satoru Ishihara*, Yohei Sasagawa, Takeru Kameda, Mana Umeda, Hayato Yamashita, Naoe Kotomura, Masayuki Abe, Yohei Shimono, Itoshi Nikaido*.
The local state of chromatin compaction at transcription start sites controls transcription levels. Nucleic Acid Research. gkab587. 07 July 2021.
(*co-corresponding author)

日本語のプレスリリースは以下です。

遺伝子の構造が「密」になると遺伝子の働きが抑制される ―遺伝子が巻き付いた円柱構造に着目して解明された遺伝子の働く強さの調節―

エピゲノム異常と脳機能不全の機序解明

理研眞貝研らとの共同研究で、遺伝性精神神経疾患の一つであるクリーフストラ症候群の脳機能不全が生後でも治療できる可能性をマウスで示しました。原因遺伝子のヒストンメチル化酵素を補充するとマウスの活動量低下や不安を抑制できました。

我々のラボでは、ヒストンメチル化酵素を欠損させたマウス脳で1細胞核RNA-seqを担当し、炎症との関係を示しました。RamDA-seqで1細胞核RNA-seqを行った初めての例になります。脳はpre-mRNAのような長いRNAやポリAが付加されていないRNAが多く存在しますが、ランダムプライミングを用いるRamDA-seqではそのようなRNAももれなく捉えることができますので、1細胞核RNA-seqにも向いていると思われいます。

Ayumi Yamada, Takae Hirasawa, Kayako Nishimura, Chikako Shimura, Naomi Kogo, Kei Fukuda, Madoka Kato, Masaki Yokomori, Tetsutaro Hayashi, Mana Umeda, Mika Yoshimura, Yoichiro Iwakura, Itoshi Nikaido, Shigeyoshi Itohara, Yoichi Shinkai.
Derepression of inflammation-related genes link to microglia activation and neural maturation defect in a mouse model of Kleefstra Syndrome.
iScience. June 16, 2021

日本語のプレートは以下です。

エピゲノム異常に起因する脳機能不全の治療の可能性 -クリーフストラ症候群の治療法開発に前進-